物流DXとは? 実施するメリットや導入事例、現状の課題
こんにちは。Cariot(キャリオット)ブログ編集部です。
現在、国の主導によって推進が急がれている物流DX(デジタルトランスフォーメーション)。実は、物流・運送業界の抱える課題を、抜本的に解決する可能性を秘めているということをご存知でしょうか。今回は、物流・運送業界の課題を通じて、物流DXの意味やできること、各企業の事例などについて詳しく解説します。
1.物流DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、経済産業省のガイドライン(※1)において「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること 」として定義されています。
現在、日本では、業種・分野を問わずDX推進へのメリットがアナウンスされており、多くの課題を抱える物流・運送業界にも大きな恩恵をもたらすことが期待されています。
物流分野のDXは「物流DX(ロジスティクスデジタルトランスフォーメーション)」とも呼ばれ(※1)国土交通省のホームページでは「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでの在り方を変革すること 」として紹介されています。
(※1「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン Ver.1.0」経済産業省)
1-1.国土交通省の総合物流施策大綱の柱
国内の物流施策の指針を示す「総合物流施策大綱」の2021年度~2025年度版が、2021年6月に閣議決定されました。
そして、総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)の「今後取り組むべき施策」のトップに掲げられているのが、(※1)「物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流の実現) 」です。
総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)では、物流・運送業界が現在抱えている課題とともに、新型コロナウイルス感染症の拡大による宅配便の需要増にも言及し、速やかな物流DX推進の必要性が示唆されています。そのため、今後、物流を取り巻く環境の変化がさらに活発化することも予想されます。
2.物流・運送業界の課題
物流・運送業界は、現在、主に以下の3点の課題を抱えています。これらは、物流DXによって解決することが期待されている課題なので、詳細を見ていきましょう。
- 人員不足
- 個人向けの小口宅配便の増加
- 倉庫の空き不足
2-1.人員不足
トラックドライバーは、物流・運送業界を支える重要な労働力ですが、多くの企業が人員不足であることを実感しています。具体的には、例年およそ60〜70%の企業が、人手が「不足」、「やや不足」と回答しています。
また、トラックドライバーの高齢化も、将来的な人員不足の懸念材料となっています。トラックドライバーの平均年齢は、全産業と比較して5歳前後も高く、今後、退職などにより、他業種に先駆けて人員不足が深刻化する恐れがあると考えられます。
参考:https://www.mlit.go.jp/common/001354690.pdf
2-2. 個人向けの小口宅配便の増加
1990年の物流件数は1365万6000件でしたが、2015年には2260万8000件にまで急増しました(※2)。いわゆるネットショッピングなどの「個人向けの小口宅配便」の増加(多頻度化)が、物流・運送業界における傾向となっています。
このような個人向けの小口宅配便の増加は、人員不足、再配達の増加といった問題を生み出しています。近年では、新型コロナウイルス感染症の影響により、ネットショッピングの利用世帯者数が急拡大していることが、総務省統計局のホームページでも紹介されています。また、個人向けの小口宅配便の増加による業務負担増など、現場へのさらなる影響が懸念されています。
参考:新型コロナウイルス感染症で変わるネットショッピング-家計消費状況調査の結果から-
(※2「物流を取り巻く現状」国土交通省 総合政策局)
2-3.倉庫の空き不足
個人向けの小口宅配便の増加は、「荷物管理負担の増大」にもつながっています。特にコロナ禍においては、倉庫の空きスペース不足が深刻な状況となっています。
「LMT(大型マルチテナント型物流施設)」の新規需要は、コロナ禍において高まりを見せており、2020年の第1四半期(Q1)の物流施設の空室率は、過去最低となる0.5%を記録し、以降も最低水準をキープしています(※3)。
(※3「物流RESILIENCE|コロナ禍でさらに強まるニーズ」CBRE)
3.物流DXでできること
物流DXは、物流・運送業界における課題解決のために、機械化・デジタル化を通じて業務の省力化・効率化を目指します。そんな物流DXにおいて、現在進められている具体的な取り組みは、以下の通りです。
- 物流の自動化・機械化による省力化
- ラストワンマイルの効率化
- 庫内作業の効率化
- 運送手続きの電子化
- 労働環境改善に向けたシステムの活用
- 配送状況の見える化による業務効率の向上
3-1.物流の自動化・機械化による省力化
現在、物流を取り巻く環境のトータル的な自動化・機械化が進められていますが、そのひとつが「幹線輸送の自動化・機械化」です。その具体例として、以下のものが挙げられます。
●トラックの隊列走行・自動化
「隊列走行」は、リアルタイムな車間通信によって、車間距離を自動でキープしながら走行する技術です。2021年3月には、国土交通省・経済産業省によって「トラックにおける後続車無人隊列走行技術の実現(注:先頭のみ有人)」が発表されました。
●自動運搬船
「自動運搬船」は、AI、IoT、衛星通信などを活用して、海上輸送における自動化を目指します。2019年9月には、「日本郵船株式会社」が世界に先駆けて、大型自動車専用船の有人自動運航に成功しています。
3-2.ラストワンマイルの効率化
「ラストワンマイル」とは、物流において「最終の配達区間」を指します。具体的には、利用者の最寄りの基地局(最終拠点)から顧客(エンドユーザー)までの区間を意味します。
ラストワンマイルは、「配送無料」「即日配達」など、大手ネット通販会社のサービス強化がダイレクトに影響する部分です。一方で、先述した個人向けの小口宅配便の増加や、それに伴う再配達リスクの増大などの問題が生じています。
2021年10月には大手物流企業が国内初となる「ドローンを使用した有料配送」を一部地域でスタートする予定です。 こちらも「物流の自動化・機械化による省力化」のひとつですが、ラストワンマイルの効率化に特化した取り組みであるといえるでしょう。
3-3.庫内作業の効率化
個人向けの小口宅配便の増加は、倉庫管理・庫内作業の煩雑化をもたらしています。
入出荷作業、配送管理などの自動化・機械化に取り組む企業も増えています。 一例としては、AI技術を活用した「ピッキング作業指示作成の最適化」が挙げられます。庫内の動線を意識した的確なピッキング作業指示を実施することで、庫内作業の効率化が期待できます。人手作業の省力化はもちろん、庫内作業を最低限の人数のスタッフで実施することが可能となります。
3-4.運送手続きの電子化
運送手続きは、従来、紙の伝票でやり取りされていました。 しかし、近年では、運送状やその収受に関わる書類の電子化が進んでいます。これにより、関連書類の保管、管理にかかっていた業務負担、コストの削減につながることが期待できます。
実際に、全ての倉庫業界の紙伝票が電子化されると、年間の経済効果は300億円超に及ぶとの試算もあります。
3-5.労働環境改善に向けたシステムの活用
システムを活用し勤務状況を「見える化」することは、労働環境改善を目指す上で欠かせません。DXの導入は、勤務における無駄を見つけることにも役立ちます。さらに、データを通じて、従業員の客観的で公正な評価にもつながるなど、労働環境改善に大きく寄与します。これまで人力で作成していたシフト表や日報なども、システムを活用することで自動的に生成することが可能です。
3-6.配送状況の見える化による業務効率の向上
輸配送の効率化には動態管理システムを導入することで、車両の現在地、目的地への到着時間をリアルタイムに把握することで、アナログな手法での現在地の確認や電話連絡も不要となり業務の効率化へ繋がります。
また、システムが取得した走行データを元に運転日報が作成できるので、手書きに比べて作成時間が短縮でき、管理も容易になります。
4.物流DXに取り組む企業の事例
ここからは、物流DXに取り組む3つの企業についての事例を、見ていきましょう。
事例1
物流DXのサポート業務を手掛けるA社は、「デジタルトランスフォーメーション銘柄2021」にも選定された通信キャリア大手と、総合物流大手の共同で2020年に設立されました。
同社はすでに「Webアプリケーションを利用したクラウド型配車支援サービス」を提供しており、会社管理のデジタル化をサポートしています。また、2021年度中には、「物流事業者と荷主企業のマッチングサービス」のリリースを予定しており、AI技術などを活用した高精度・高品質なマッチングを実現することが期待されています。
事例2
日本を代表する大手物流のB社は、2021年に独自のDX戦略を策定し、経済産業省の「DX認定取得事業者」にも認定されました。
そのメインとなる施策は、「協創によりデータを価値に変えるエクスターナルDX」、「業務を効率化しデータを集約するインターナルDX」の2点で、社内向けのみならず、社外向け施策を盛り込んでいる点が大きな特徴であるといえます。加えて、DX実現に向けた最適な組織づくり、人材の確保、スムーズな情報伝達・共有、ITガバナンスなど、多方面からのアプローチによるトータルなDX改革を推進しています。
事例3
DXによる食品流通サポート業務を手掛けるC社は、国内最大の通信事業グループと、総合物流大手企業の共同で2021年に設立されました。
その第1弾となる取り組みが「食品卸の在庫最適化」で、企業内外のデータを連携することによるソリューションを提供しています。今後は、ブロックチェーンの実証実験などを通じて、食品流通業界の抱える課題へ多面的にアプローチする計画を立てています。
5.物流DXの課題
物流をはじめ、業種を問わず、多くの恩恵をもたらすことが期待されるDXですが、日本におけるDX化は進んでいないのが現状です。
経済産業省は、「DXレポート」(2018年)において「2025年の崖」を紹介しました。同省はその中で、DX化が達成されず、従来のシステムが残り、専門知識を持つ人材の引退やシステムのサポート終了に見舞われた場合、 2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性を示唆しました。
しかし、「DXレポート2 中間取りまとめ」(2020年)の調査結果において、回答を提出した企業の95%が「DXに全く取り組んでいない」、もしくは「取り組み始めた段階」であることが判明しています。
本章では、DX推進の障害となっている以下2点の課題について、見ていきましょう。
- 既存システムの複雑化・ブラックボックス化
- 現場サイドの抵抗
5-1.既存システムの複雑化・ブラックボックス化
経済産業省は、「DXレポート」(2018年)で、「システムの老朽化、複雑化、ブラックボックス化などの問題を有する企業」がおよそ80%、「既存システムが自社システムのデジタル化の足かせになっている」と回答した企業がおよそ70%との調査結果を紹介しています。
古いシステムであればあるほどそれらを扱うことができえる人材が限られてしまい、システムの全容が分からない状況になりがちです。また、物流業界の場合、システムが事業部門ごとに構築され、データの集約・活用が困難であるケースも少なくありません。
このような状態を放置することは、システムのさらなる老朽化、複雑化、ブラックボックス化を招き、健全なマネジメントやDX化がさらに困難になるといった悪循環が懸念されます。
5-2. 現場サイドの抵抗
DXの推進は、業務効率化による就労環境の改善も期待できます。しかし、現場サイドがDX化に抵抗するといったケースも少なくないようです。その原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- ビジネスプロセスや組織体制の見直しによる業務負担増大への懸念
- 現場サイドがDX化の必要性やメリットを十分に理解できていない
- DX戦略ビジョンを描ける専門的人材の不足
いずれにせよ、経営陣がDXに対する知識を深め、現場へ具体的なビジョンを提示し、説得することが求められます。現場サイドの抵抗に対しては、強引にDXを推進するのではなく、DXが社の総意となるよう、現場のコンセンサスを得ることが極めて大切です。
6.まとめ
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