開催まであと1年、東京五輪の交通調整の実情と捗らない物流対策
こんにちは、Cariot(キャリオット)ブログ編集部です。
東京五輪まであと1年。日に日にスポーツ熱の高まりを感じるようになってきましたね。都心における真夏開催に際しては、ヒートアイランド現象による暑さが懸念されていますが、それとともに課題となっているのが道路や鉄道の混雑といった問題です。
東京都では大会本番を見据え、2019年日7月24日・26日に大規模な交通規制テストを実施し、話題となっています。
今回の記事では、良好な交通環境を実現するための交通対策などの現状、また五輪期間における物流関係に生じる課題や取り組みについて、進ちょくや対策のための最新情報をご紹介します。
【目次】
1.先日、五輪を見据えた交通規制のテストが実施された
1-1.実施テストの内容
1-2.五輪期間中の目標交通量、どれだけ交通規制されるのか?
1-3.目標の具体的な数値と実施テストの結果は?
1-4.しわ寄せが発生した道の種類、どこがどれだけ渋滞したのか?
1-5.テストを経て、問題の物流対策の進ちょくは?
2.民間企業に協力を依頼しているが現状企業単独での対応は難しい
2-1.東京都が取り組むスムーズビズとは?
2-2.物流業者のTDM。できることとできないことがある
2-3.「中1日配送」で乗り切る!? 五輪期間中の物流業者の対策は?
3.五輪がきっかけとなる効率化とは
3-1.配送の時間変更・ルートの変更…。五輪でも事前情報を元にした交通対策が必要
3-2.物の運搬における効率化を目指すには何が必要か?
1.先日、五輪を見据えた交通規制のテストが実施された
東京五輪の開幕がちょうど1年後に迫った19年7月24 日および7月26日、都心部の混雑緩和に向けた交通規制テストが実施されました。競技会場への主要ルートとなる首都高速道路では、通勤時間帯を中心に最大で33カ所の入口を閉鎖し、環状7号線では都心方向への流入が抑制されました。過去に例のない大規模な規制となったため、ニュースでも大きく取り上げられましたね。首都圏にお住まい、または通勤されている方の中には実際に規制に遭遇したという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
1-1.実施テストの内容
具体的な対象箇所としては、首都高においては新国立競技場(東京・新宿)最寄りの「外苑」(上り・下り)と選手村(同・中央)近くの「晴海」など4カ所の入り口を閉鎖。さらに高速道への流入量が多く、渋滞発生に影響を与えやすい三軒茶屋などの料金所入口などを終日閉鎖。また、東名高速や中央高速、東北自動車道などから首都高へ入る計11カ所の料金所ではレーン数を減らし、流入台数を抑制しました。
また、一般道では環状7号線の交差点118カ所で、早朝5時から正午まで都心に向かう青信号の時間を10秒程度短くすることで流入を抑えました。
1-2.五輪期間中の目標交通量、どれだけ交通規制されるのか?
東京2020五輪においては、大会関係者及び観客の安全で円滑な輸送と、物流を含めた都市活動の安定との両立を図ることを目指しています。
そのためには主要道路の混雑緩和は重点項目の一つとなっており、東京2020組織委員会は良好な交通環境のための交通量目標を以下のように掲げています。
◆一般道路
東京圏の広域における一般交通について、大会前の交通量の一律10%減を目指します。
特に重点取組地区については、出入りする交通量の30%減を目指します。
◆首都高速道路
東京圏のオリンピック・ルート・ネットワークの基幹をなす首都高速道路については、交通量を最大30%減とすることで、休日並みの良好な交通環境を目指します。
上記の実現に向け、大会開催1年前の夏となる今年、混雑緩和に向けた取り組みを総合的にテストすることに至ったようです。
1-3.目標の具体的な数値と実施テストの結果は?
さて、気になる結果はどうだったのでしょうか?
国土交通省のまとめによると、24日は一般道では国道20号など15地点で計63万台が通行し前年同期比4%減、首都高では101万台の車両が通行、同7.3%減。26日も一般道は66万台で4%減、首都高では107万台で6.8%減であったと日本経済新聞などが報じています。
目標達成までとはいかなかったものの、いずれも交通量削減の効果が出ていたようです。
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※国土交通省の発表を基に作成
次に、渋滞距離と時間をかけた「混雑量」の指標で見てみましょう。
例えば、競技会場が集中する臨海部を走る首都高湾岸線(東行き)。
結果は24日は、前年同期比96%減、26日は85%減という数字に。
こちらも混雑緩和の効果があったといえますが、26日は月末の金曜日ということで交通量が多かったため、24日より減少幅が縮まったようです。
なお、他の交通量の多い3号渋谷線上りでは87%減(24日は91%減)、4号新宿線上りで61%減(同78%減)など、いずれも混雑解消効果があったことが判明しました。
1-4.しわ寄せが発生した道の種類、どこがどれだけ渋滞したのか?
一方、一規制によるしわ寄せも多数発生しました。
まず、レーン規制が行われた料金所手前です。東名高速では一時15キロ、東北自動車道でも6キロの渋滞となりました。
また入口閉鎖により首都高に入れなかった車両が一般道に迂回したことで、国道246号線では最大191%、国道1号線では200%の混雑に。
他にも4号新宿線と並行する国道20号下りは91%増(同24%増)、3号渋谷線と並行する国道246号下りでも59%増(同123%増)などと混雑が目立ちました。
さらに環状7号線においては一般道テストの信号規制とも相まって、激しい渋滞が起きてしまった箇所もあります。
1-5.テストを経て、問題の物流対策の進ちょくは?
テストを終えた19年7月26日、東京2020組織委員会は、警視庁交通管制センターで五輪を見据えた交通対策の今夏の取り組み状況を紹介しました。
発生交通量の抑制や集中の平準化など、「交通需要の調整」を行うことにより、道路交通混雑を緩和していく取組み「TDM(交通需要マネジメント)」。
今回の交通規制のテストをはじめ、良好な交通環境実現のためには、交通量を減らし、調整することが重要になってきますが、その中には、トラックをはじめとする物流関係の車両も、もちろん含まれてきます。
上記報告においては、物流関係のTDMの進ちょく状況についても共有があり、現段階では具体的な進ちょくは見られない状況であることが発表されました。
人流の取り組みが大手企業を中心に進んでいる一方、物流関係の配送ルート・時間帯の変更やリードタイム緩和などの対策を打つのはこの夏では難しいようです。
※TDM・・・交通需要マネジメントのことで、自動車の効率的利用や公共交通への利用転換などによる道路交通の混雑緩和や、鉄道などの公共交通も含めた交通需要調整をする取組のことを言います
2.民間企業に協力を依頼しているが現状企業単独での対応は難しい
大会期間中は、世界中から首都圏に1000万人以上が訪れ、鉄道の乗客は通常より1割ほど増えると予想されています。また、選手や大会関係者はバスやバンを使っての移動となり、1日約5〜6万台に相当する交通量増加になると見込まれています。
交通量の規制や調整といった交通対策には、各企業の協力が欠かせません。
そんな中、東京都は19年7月22日に企業や官公庁、団体に協力を求め、混雑時間を避ける時差出勤やテレワークなどに取り組む「スムーズビズ推進期間」を開始しました。
2-1.東京都が取り組むスムーズビズとは?
東京都の取り組みに合わせ、JR東日本は19年7月22日~26日、山手線と中央・総武線で午前5〜6時台の列車を増発、東急電鉄も同7月22日~31日のうち、平日の朝6時台に臨時列車を運行するなどして、通勤時間帯の混雑緩和の対策を行いました。
このような「スムーズビズ」の計画ですが、東京都では企業や官公庁、団体には「テレワーク」や「時差Biz」、物流企業には配送時間やルート変更などで交通量を削減する「2020TDM」への取り組みを呼びかけています。
現段階では約3000社の企業が協力する予定ですが、東京商工会議所が都内の企業475社にアンケート調査を実施したところ、物流面の対策について何らかの検討を始めたと答えたのは約11%にとどまりました。
多くの場合、社内や取引先との間での調整が必要となり、「企業単独での対応は難しい」という声もあがっているようです。
上記のような取り組みは、あくまでも協力ベースのため強制力はなく、実際どれくらの削減が実現するのか? といった想定も難しい状況です。
2-2.物流業者のTDM。できることとできないことがある
次に、この取り組みが物流面に与える影響を考えてみましょう。配送業務とTDMはどちらも重要であり、物流業者にとってはその調整に頭を悩ませています。
ちなみに、総務省によると18年(平成30年)度におけるテレワーク導入企業の割合は19.1%。その中で、運輸業は8.7%と最も低くなっています。物流の主要業務「荷物の配送」を遂行するためにはドライバーの稼働が欠かせません。
例えば、コンビニエンスストアは安定した商品供給ため、通常1日に何度も納品を行なっています。それがTDMによって、大会期間中は配送を1日1回などに減らすといったことになるかもしれません。結果、消費者側からすると“新鮮なものが24時間いつでも手に入る”日常はなくなり、ドライバー側も雇用形態によっては、その影響で仕事量が減ったとしても誰からも補填はない…。という厳しい現実に直面してしまう可能性もあります。
2-3.「中1日配送」で乗り切る!? 五輪期間中の物流業者の対策は?
約1ヶ月に渡る大会期間中は、物流業界をはじめ、配送関連業務に携わる人にとっては “非常事態”ともいうべき状況が続くことになります。
それでは、それらを乗り切るためにどのような対策が有効なのでしょうか? 具体的な対策を検討している企業の一例を見ていきましょう。
都内に本社を構えるある食品メーカーでは、全国でリードタイムを「中1日配送」とし、商品のパレット化により車両の確保と運転手の負荷軽減を目指していくようです。
さらに首都圏エリアの大会マップに物流拠点と納品先をマッピングし、首都高内側、会場半径5km以内の「TDM重点地区」においては、早朝・夜間配送を行い、検品の簡素化による速やかな納品、直送から倉庫出しにシフトする意向です。
外環道内側の「重点地区」においては、指定曜日配送と検品の簡素化を検討。圏央道内側では午後納品とすることで、混雑の可能性が高い午前配送を回避する計画もあります。
また、別の食品メーカーにおいても、配送の工夫による混雑回避プランを検討しています。
こちらも交通規制情報や混雑の条件を事前に特定した上で、五輪期間中は「翌々日納品」とする予定のようです。さらに検品レスとすることで、荷役作業、納品時間を短縮によりドライバーの負担を軽減するといった対策も考えているようです。
いずれの場合も、中1日を設けて稼働調整しやすることにより、配送車両の効率化とドライバー不足解消の実現を目指すようです。
3.五輪がきっかけとなる効率化とは
昨今のEC市場の成長拡大に伴い、物流業者は商品を正確・迅速に届けることが求められ、それが利益に直結するよう、配達量や配達日時は、荷主や消費者の依頼ありきで決定されることが多く、配送業者単独でのコントロールは難しいところではないでしょうか。
そんな、多頻度小口配送化が進んでいる中で迎える東京五輪。クリアしなければならない課題は山積みですが、配送業務の効率化をはじめとするTDMのための対策は、日頃の業務を見直す良いきっかけになるのかもしれません。
3-1.配送の時間変更・ルートの変更…。五輪期間中でも事前情報を元にした交通対策が必要
現在、自動車交通の3割を占めているのがトラックをはじめとする配送車両です。会期中の円滑な輸送にはトラックの交通量抑制が不可避となってきます。
今回のような国際的なイベントにおいては、期間や混雑予想区間など、対策の立案に有効な情報が提供されているため、その点においてはあらかじめ対策を検討できる点もあるのではないでしょうか。
前述の通り、現段階で具体的な対策案が固まっている業者はわずかですが、五輪が近づくにつれ、配送の時間変更・ルートの変更など、各社の調整がこの先、急ピッチで進んでいくのかもしれません。
3-2.物の運搬における効率化を目指すには何が必要か?
今回のような規模の状況変更は滅多にありませんが、状況に応じて配送時間やルートの変更といった調整の必要は常日頃から発生します。天候・事故・コミュニケーションミスによる緊急配送など、様々あります。
これらに対処するには、何が必要になるでしょうか?
こういったシーンでも慌てず対応を行うためには、日頃、車両がどのような動きをしているのかをしっかりと把握する必要があります。例えば、常に「車両がどこを走っているのか」、「何時間運転しているのか」などの状況を知っておくことです。理想は“今”の車両位置が分かれば言うことはないでしょう。
車両管理システムなどを活用したデジタル管理を行えば、「どの車両がどこを走っているのか?」「渋滞、配達状況は?」といった一連の動きを見える化でき、一元管理できる体制が整います。車両・ドライバー・周りの状況など全体を把握できることで、業務の無駄に気づき改善を行うなど、最適化を実現することに繋がってきます。
さらには、今後の国際的なイベントや自然災害発生時などにも状況に応じて適切なコントロールができるようになるのかもしれません。
今回の五輪開催は、物流業者にとっては荷主や関係業者との連携の強化、物流オペレーション見直しなど効率化の機運が高まる鍵になってくるのかもしれませんね。
※TDMについて詳しく知りたい方は下記のページをご参照ください。
「2020TDM推進プロジェクト」
現在、19年夏の交通対策に向けたアンケート調査も行なっていますので、よろしければこちらもご覧ください。
「2019年夏の試行に向けたアンケート調査」