「配送も品質の一部」Appleから学ぶ企業価値の高め方
【はじめに】
もう30年も前の話になりますが、私は大学卒業と同時に鉄鋼メーカーに入社しました。仕事は、工場の生産設備の稼働効率が高まるような生産指示をすることでした。
その会社はシステム投資を積極的に行っていて、社内の端末からは、製品の製造指示を出すだけではなく、その後どの工程でどのようになっているかを確認することができました。製品の進捗率や不良率がほぼリアルタイムに把握でき、生産管理に従事する私だけでなく、顧客応対をする営業担当者にとっても有益な情報源で、このシステム無しにその企業が成り立たないほど必須な存在でした。
鉄鋼業は代表的な装置産業であり、古くから生産工程のデジタル化が進んでいましたが、その後、製造業全体で、生産工程にとどまらず、製品やサービスを顧客に届けるまでの、原料や部材調達、生産、配送までの一連のプロセスを管理できる仕組み(サプライチェーンマネジメント)の重要性も認識されるようになりました。
【Appleに見るサプライチェーンのデジタル化戦略】
サプライチェーンのデジタル化は事業者にとって効率化というメリットがあるだけではなく、顧客サービスという点でも有益です。
Appleの例を挙げてみましょう。
iPhoneは米国カリフォルニア州のApple本社で企画設計されていますが、部品は日本を含む主としてアジア各地で生産され、その部品を使って中国の複数委託先工場で組み立てられ、世界各国に出荷されています。いくつもの供給元、いくつもの製造拠点、世界各地の顧客というグローバル規模の生産販売体制が、一つのサプライチェーンマネジメントシステムで統合されています。
Appleは、このシステムを駆使し、世界各地の販売先の動向をいち早くつかみ、タイムリーに部材の調達を行い、在庫を最小限にして巨大な利益を上げていると言われています。この仕組みを構築できたからこそ、Appleが世界ナンバーワンのスマートデバイス企業の地位を確立できたとも言えます。
Apple自身だけではなく、顧客もこのシステムの恩恵を得ることができます。iPhoneをAppleのWebサイトで注文すると、発注者に注文番号が割り当てられます。発注者は製品が届けられるのを待つ間も、Webサイトで注文番号を調べれば、出荷準備中、出荷、配送中、配達完了などの状況を24時間知ることができます。配送状況が可視化されることで、顧客は安心して待っていられます。配送品質も「顧客体験」の重要な一部となってApple製品への高い評価を生み出します。
【配送業務の最適化】
この例のように、顧客接点のラストワンマイルである配送は、「品質」の一部として顧客から評価を受けます。対応のまずさがあればSNSを通じてあっという間に炎上騒ぎへと発展しかねません。配送を含めたサプライチェーンの最適化は、企業の利益の確保のみならず、顧客からの製品評価、ひいては企業価値に反映する鍵となっています。
配送における最適化は、多岐にわたる困難な作業です。
決められた日時に到着するという顧客の要求に応えつつ、配送にまつわる様々な課題、すなわち、積載効率、配送効率の追求はもちろんのこと、環境保護、安全管理、品質管理、労務管理などの様々な課題をバランス良く解決していく必要があります。
【既存のサービスを組み合わせて実現できる】
このため、最適化のためのシステムを構築すると費用が巨額になるリスクがあります。そこで、これらの課題解決につながる既存のクラウドサービスが幾つか出てきています。車両をネットと繋げて「コネクテッドカー」にして現状を可視化する動態管理サービス、動態データや顧客データをもとに課題とポテンシャルを分析するロケーションインテリジェンスサービス、フィールドで業務をする人向けの勤怠管理サービスなどが候補に挙がってきます。このようなサービスを必要に応じて組み合わせることで、顧客に対して、荷物の配送状況にとどまらず、交通事情を加味した到着予想時刻を知らせることができるだけでなく、収益の確保と併せて、従業員の適切な労務管理も実現します。
Appleのように、サプライチェーンの最適化を積極的に進めて、顧客体験の改善と企業価値の向上を実現することは、クラウドサービスの活用により、皆さんの会社でも提供可能な時代となっています。